2017/07/21

英語教育小論文コンテスト「10代・20代が創る未来の英語教育」の最優秀賞は、大阪府の岸本陵汰さんに決定しました


広島大学教育学部英語教育学講座主催 第一回英語教育小論文コンテスト「10代・20代が創る未来の英語教育」 の最優秀賞は、大阪府の岸本陵汰さんに決定しました。


最優秀賞 (岸本陵汰さん・大阪府)

 最近の英語の教科書題材において外国の文化や日本の伝統などが数多く扱われているのに対し、政治的内容はタブーとされてきました。沖縄県出身の筆者は、ふるさとを離れてみて、沖縄の人たちがふだん目にあるいは耳にしていることがほとんどニュースや新聞で扱われないことに愕然とします。ただメディアやうわさに聞いた情報を鵜呑みにするのではなく、沖縄の現実をもっと英語教育の教材に取り入れることができたら、自然で真のグローバルな視点をもたせる理想の英語教育になると提案します。教科書のタブーに挑戦し、極めて重要な問題提起をしている論文であり、最優秀賞に値すると判断しました。




岸本さんは7/23(日)の広島大学英語文化教育学会の公開企画である授賞式にご招待させていただき、そこで賞状と賞品(図書カード)を贈呈させていただきます。

なお、岸本さんは授賞式の後のシンポジウム、対話の集い、ワンコインパーティにも参加してくださるそうです。

どうぞ皆様も7/23(日)の午後は、広島大学教育学部へお越しの上、意義深い語り合いを楽しんでください。

広島大学東広島キャンパスへのアクセス
https://www.hiroshima-u.ac.jp/access/higashihiroshima
教育学部K102教室へのアクセス
https://www.hiroshima-u.ac.jp/access/higashihiroshima/busstop_higashihiroshima/aca_3






以下は、岸本さんの論文全文です。

*****


広島大学教育学部英語教育学講座主催 
第一回英語教育小論文コンテスト「10代・20代が創る未来の英語教育」
最優秀賞

「私が思うあるべき英語教育 ~離れているから感じること~」



岸本陵汰

  私の出身は沖縄県。その北部に位置する名護市という場所で生まれた。高校までの18年間はそこで暮らし、大学進学を機に大阪の地に来た。私は英語の高校教諭を目指しており、なりたいと思ったきっかけは二つある。一つ目は、私の姉は地元にある米軍基地内でアルバイトをしており、外国人の人たちと楽しそうに会話する姉に憧れを抱いていたこと、二つ目は祖母の影響であった。沖縄戦を経験している祖母は心底、外国が嫌いであった。だが、「英語教育で伝えていかなくてはならないものがある」ということを伝え祖母を説得した。

 私は英語教育に政治的内容を取り上げたいと考えている。今、多文化社会におけるコミュニケーションが必要とされている中、中高生の若い時から政治的ニュースや話題について目を向け、自分なりの意見を持たせ、それを主張する技術を練習しておき、グローバル社会で生き抜く力を養う必要がある。

 高校生時代の教科書の内容は「外国のクリスマスについて知ろう」「Traditional customs in Japan ~日本の伝統的な風習~」などであった。個人的にはあまり記憶に残らない、ありきたりな教材という風に感じていた。同級生の友達からも「なぜか英語だけ勉強する気にならない」という声を多数聞いていた。

  実際に、ある調査機関が2012年に未成年の子どもを持つ親1000人を対象にアンケートを行った結果9割近くの親が今の英語教育に対して不満を感じているということが判明した(注) 。「勉強しても使えない」という声が多くあり、これに加え9割以上の親が「グローバルな視点をもってほしい」と答えている。

 だが、グローバルな視点といっても急に国外の問題に目を向ける授業を行うのは難しいことだと思う。理由として、知識不足であることや、距離が遠く実感が湧かないなどが挙がると考えられる。ならば、国内で起きている政治的問題、「沖縄の基地問題」について授業すれば良いのではないか。取り組み方としては、米軍基地の移設に関する是非を問うことや、反対派と賛成派の両意見を聞くということだけではなく、「現地の人だからこそ知っている基地」というのを題材にして授業を行っていきたい。私は本土の地に来て、ニュースや新聞などで沖縄の基地についての記事を目にすることが何度かあったが「反対派と警官との争いが続く」「米軍基地の入り口前で座り込み抗議」などだけであった。実際、この記事は嘘ではない。だが、このような報道は基地問題の表面的なほんの一部しか伝えてない。

 私の高校生時代の話である。昼間に米軍基地の周辺を散歩していると、「Pray for Oki」「沖縄と共に悲しんでいます」などといったプラカードをガードレール脇に掲げて、沖縄に暮らす外国の方々が暑い日差しの中、通り過ぎる車に対して何度も頭を下げていた。私はこの光景を見て涙が止まらず胸が締め付けられるような思いになった。小さい子ども、赤ちゃん、お年寄りの方々、たくさんの外国の人たちが参加していて彼らも悲しんでいるのだと身をもって感じた。

 この他にも地元の子どもたちと海辺のゴミ拾いをする活動に参加したり、外でお年寄りが倒れていて車を停めて応急処置をし、お年寄りを助け市から表彰された外国の人だっている。言葉が通じなくとも彼らは彼らなりにコミュニケーションをとり、地域の人たちと仲良くしようと心掛けているのだ。それと同時に、こういうことはメディアにあまり報道されていないのが現状であり、沖縄県外の人たちにこうした現状が届いていないと感じている。私はこのようなことを英語教育の「教材」を通じて知ってもらい、関心をもってもらいたいと感じている。そしてもちろん、中高生に英語力をつけて彼らと直接コミュニケーションをとってもらいたいと思っている。

 しかし、やはり基地問題を題材にして授業を行うことや政治的な内容を授業で扱うことに対して不満や反対意見が出てくると思う。個々の個人的な意見が反映されてしまうかもしれないし、自分自身の見解が生徒たちに影響を及ぼしてしまう可能性だってある。だが、それよりもまず日本で起きている問題に対して関心を持たせるということが大事だと考える。

 私が小学6年生の時に起きた東日本大震災。遠く離れた沖縄でも連日放送されていた。放射能問題や避難所問題、たくさんテレビで耳にしたが、さほど実感が湧かないのが事実であった。これは、私の偏見であるが私と同じ考えであった人はほかにもいたであろう。どこか、他人事のように感じていて、ただただメディアから流れる情報を鵜呑みにして理解していたつもりであった。

 これこそが、体験したかしていないかで起こる関心の違いなのだと感じた。身をもって体験しているからこそ思うことと、ただメディアや噂に聞いたのみで理解して思うこととではまったく関心の持ち方が異なるのだ。メディアの情報だけを真実と理解して鵜呑みにすることなく、常に生徒自身の考え、体験者の心情、そして私が伝えたいこと、この3つを共有していく必要があると私は思う。

 私が考える理想の英語教育のあり方は、ただ単語の意味を理解するだけではなく、生徒たち全員にとって役に立つ興味深い内容のテーマであり、なおかつ、生徒一人ひとりが深く考えさせられる内容であるべきだと考える。その為にも、様々なことに関心を持つ10代のうちに政治的な内容を含めた授業を定着させ、メディアからは報道されない現地の人がしか知りえないことなどを英語教育を通して伝えていければ自然とグローバルな視点を持ち、幅広い知識を得るきっかけにも繋がると私は思う。

(注)楽天リサーチ株式会社 2012年 日本の英語教育に関する調査
https://research.rakuten.co.jp/report/20121121/
 



*****

最後に改めて、このコンテストに応募してくださった皆さん、このコンテストのことを他の人に伝えてくださった皆さん、このコンテストの運営に携わってくださった皆さん ー すべての皆さんに厚く感謝申し上げます。  このコンテストを通じて、英語教育に携わる広大教英の責任の重さをいっそう感じました。これからも精進しますので叱咤激励をお願いします。  また、このコンテストは来年度も同時期に開催したいと現在のところ考えております。来年度もどうぞよろしくお願いします。



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